退職申し入れに対し懲戒解雇通知を受けた場合
Q.
3日間の無断欠勤中に退職の申し入れをしたところ、使用者から、懲戒解雇通知(即時解雇)がきました。
私は雇用契約に期間の定めがない正社員で勤続10年になります。
退職金制度もあります。どうすればよいでしょうか?
A.
退職の意思表示により既に労働契約は終了しており、解雇は無効である旨主張して、退職金の支払を請求すべきです。
【解説】
① 雇用契約に期間の定めがない場合
雇用契約に期間の定めがない場合、労働者はいつでも自由に退職の申し入れをすることができ、申し入れから2週間経過することにより雇用契約は終了します(民法627条1項)。
しかしながら、2週間は雇用契約が継続していますので、この期間内であれば使用者は労働者に対して、形式的には解雇通告することができることになります。そこで、解雇が有効かどうか問題となります。
② 懲戒解雇に対する規制について
懲戒解雇とは、懲戒として行われる解雇であり懲戒処分のうち最も重いものです。
懲戒解雇は、辞職した場合と比較して、転職先に懲戒解雇が発覚すると転職が難しくなる、退職金の扱いで不利益を受ける可能性がある等、労働者が受ける不利益が大きいといえます。
このような懲戒解雇については、懲戒処分の一種であることから、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」(労契法15条)とされています。
また裁判例上、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」(フジ興産事件:最判H15.10.10)とされており、懲戒処分を行うには、会社の就業規則に定めがあり、かつ同懲戒事由に該当する必要があります。
さらに懲戒解雇については、就業規則上の要件に形式的に該当するとしても、「当該非違行為が企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは少なくとも、そうした事態が発生する具体的かつ現実的な危険性が認められる場合」にのみできるとされています(日本通信事件:東京地裁H24.11.30)。
以上のように懲戒解雇は容易に有効と認められるものではありません。
③ 無断欠勤による解雇について
無断欠勤を理由として即時解雇を行う場合、解雇予告除外認定を受ける必要があります。この場合、30日前に解雇の予告を行うか、または解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払うことが義務付けられていますが(解雇予告制度)、「労働者の責に帰すべき事由」に基づいて解雇する場合においては、労基署長の認定を受ければ、解雇予告制度が適用されません(労基法20条1項)。
そして、同認定の基準として「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」(基発S23.11.11-1637、S31.3.1-111)が示されています。したがって、無断欠勤による即時解雇(懲戒解雇含む)の場合、同基発が一つの基準になり、2週間以上「 正当な理由なく 」 無断欠勤したことが前提となりますが、2週間以上欠勤したという一事をもって必ずしも解雇が有効となるものではありません(40日欠勤をしたケースで解雇を無効としたものとして、日本ヒューレット・パッカード事件:最判H24.4.27)。
このように無断欠勤による解雇については、2週間が1つの基準になっていますが、それだけでただちに有効となるものではありません。
④ 懲戒解雇と退職金の支払の関係懲戒解雇の場合の退職金の支給
懲戒解雇と退職金の支払の関係懲戒解雇の場合の退職金の支給については、就業規則の退職金規定の定めによることとなります。
ただ、就業規則に退職金の不支給、減額規定がある場合でもその規定どおりとなるのではなく、「その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要であることに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である」(小田急電鉄事件:東京高判H15.12.11)とされています。
したがって、仮に懲戒解雇が有効となっても、退職金の支給がどうなるかは慎重に検討すべき事項といえます。
なお、退職金については、自己都合退職と会社都合退職で支給金額が異なるなどの規定が設けられていることがあります。
懲戒解雇が無効として退職金の請求が可能な場合であっても、会社の退職金に関する規定を確認する必要があるといえます。
⑤ 本件の場合
前述の通り、懲戒解雇は、労契法上も裁判例上も厳しく制限されていることから、単に3日間の無断欠勤という事実をもって、懲戒解雇が有効とされるものではありません。
会社の就業規則や、3日間の無断欠勤に至った経緯、その影響等を検討の上、懲戒解雇の有効性を争っていくべきと思われます。
退職金については、就業規則の退職金規定を確認のうえ請求することになります。