正当理由もなく直ちに退職したい場合
Q.
私は雇用契約に期間の定めがない正社員です。
法律上、何らの理由もなく退職するには2週間の予告期間が必要と
いうことですが、私はもう会社には行きたくありません。
何か良い方法はありませんか?
なお、会社には就業規則はありません。
A.
年次有給休暇(以下「有給」という)が2週間以上残っていれば、これを全部行使することにより予告期間をクリアして問題なく退職することができます。有給が残っていない場合でも、使用者から強制的に労働させることはできませんので、労働者としては、事実上、退職の意思を告げて出勤しないということも出来ます。
この場合、使用者が了解しない限り、予告期間の2週間は在職扱いとなりますので、出勤しなければ理由なき欠勤とされ使用者から損害賠償請求をされることがあります。
【解説】
ご質問のとおり、雇用契約に期間の定めがない場合、労働者はいつでも退職の意思表示をすることができますが、同意思表示が使用者に到達した日から2週間経過しなければ雇用契約は終了しません(民法627条1項)。
そこでまず、勤務先の有給に関する取扱いを確認する必要があります。
たとえ勤務先に就業規則がなくても、法律上、労働者は雇用された日から6か月間継続勤務して全労働日の8割以上勤務すれば、6カ月経過の時から権利として10日間の有給を取得します(労基法39条)。
さらに、有給は勤続年数に応じて下記のとおりその日数が増加します。
記
雇用日から1年6カ月で年間11日有給発生
雇用日から2年6カ月で年間12日有給発生
雇用日から3年6カ月で年間14日有給発生
雇用日から4年6カ月で年間16日有給発生
雇用日から5年6カ月で年間18日有給発生
雇用日から6年6カ月で年間20日有給発生
そして、1年間ごとに発生する有給は、行使していない残日数については、翌年に繰り越して翌年分と合算されることとなります。ただし、有給は労働者が行使しなければ2年間で時効消滅します(労基法115条)。
上記有給日数によれば、ご相談の場合、仮に雇用されて1年6カ月が経過していて、かつ、有給を使ったことがなければ、雇用されて6カ月経過の段階に発生する有給10日間とその1年後に発生する11日を加えて、合計21日間の有給を有していることになります。
したがって、使用者に対して、「明日から有給の全部である21日間行使します、有給消化日をもって退職します」と意思表示すればいいのです。そうすれば、退職について21日間の予告をしたこととなり、法定の2週間の予告期間は有給行使により、出勤しなくても勤務したこととして扱われますので、予告期間も遵守したこととなります。
これに対して、使用者は、労働者からの前記日程を指定した有給行使に対して、当該有給日程が使用者の事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更権といって、有給日程の変更を求める権利があります(労基法39条5項但し書)。
しかしながら、本件のように、労働者が退職時に未使用の有給を一括して、日程を指定して、有給行使の最終日をもって退職する意思を表示しているときは、もはや、労働者が代替として労働する日程は存在しておらず、ほかの日程で有給を取得する余地はありませんので、使用者は時季変更権を行使できないことになります。
仮に、有給が法定の予告期間である2週間未満しか残っていないときは、2週間との残余日数については、会社に通知の上、事実上欠勤するという選択肢があります。
この場合、労働者の一方的な理由なき欠勤ですから欠勤として扱われ、ノーワーク・ノーペイの原則により欠勤中の給与は支給されませんし、懲戒処分を受けることもあります。
使用者からすれば、最も有効な懲戒処分としては、退職金不支給を伴う懲戒解雇が考えられますが、特段の事由のない限り、懲戒解雇を有効になすことはできないものと考えられます。
また、使用者の労働者に対する欠勤を理由とする損害賠償請求ですが、仮に、労働者が損害賠償責任を負う場合でも、通常は、担当していた事務や業務等の引継ぎをしなかった等により、使用者が被った損害であり、特段の事情がない限り、高額となることは考えられません。
ですから、使用者から労働者に対して、訴訟を起こしてまで請求するケースはほとんどないものと思われます。