契約期間内の退職代行利用について
Q.
契約期間年の契約社員です。
入社してまだ1年も経っていないのですが、退職できますか?
A.
退職しようとする理由が
➀「やむを得ない事由といえる場合」
➁「雇用契約にあたり使用者から知らされていた重要な労働条件が事実と
異なっていた場合」には即時に退職できます。
【解説】
まずは、会社の就業規則や雇用契約書の退職手続規定をご確認ください。規定上、明確な定めがないか、定めがあった場合でも、その定めが以下にご説明する法律の定める条件よりも労働者にとって不利となっていれば、法律の定めるところによります。
法律、就業規則、契約相互の効力関係については後に述べます。
本件のように雇用契約に期間の定めがあるときは、契約時において、当事者双方は契約期間内は契約を解消しないことを合意したことになりますので、労働者としても、原則として同期間内は退職することはできません。
しかしながら、労働者には、職業選択の自由の一環として退職の自由(憲法22条1項)がありますので、法律は、雇用契約に期間の定めがある場合でも、やむを得ない事由があるときは直ちに退職できるものとしています(民法628条)。
ここでいうやむを得ない事由とは、雇用契約が継続することが不当、不公正と認められる場合で、例えば、天災・地変による就労不能、使用者の賃金不払、労働者が負傷、疾病により就労不能になった場合などが考えられます。
また、雇用契約にあたり使用者から知らされていた労働条件、例えば賃金の額であるとか、労働時間等の重要な事項が就労後の事実と異なっていることが判明した場合にも即時退職できます(労基法15条2項)。
なお、上記法律上の即時退職事由がなかったとしても、使用者としては、現実問題として、退職の意思を表示している労働者をして強制的に就労させることはできません(労基法5条)。
したがって、説得してもこれに応じずに辞めたいという労働者については、事実上、退職を認めざるを得ないこととなります。
ただし、法律上の退職事由なくして、労働者が即時退職を主張してきたときは、使用者としては、逆に労働者の重大な契約違反として解雇できる場合もあると考えられます。
これに加えて、前記やむを得ない事由が労働者の過失により発生したとき、及び労働者が法律上の退職事由なくして退職したときは、労働者は使用者に対して、損害賠償責任を負うことがあります。
ただ、仮に労働者が損害賠償責任を負う場合でも、通常は、労働者が退職したことにより使用者に高額な損害が発生することはほとんどないものと考えられます。
現実にも使用者が労働者に対し、退職による損害賠償を請求した裁判例はほとんど見当たりません。
また、雇用契約に期間の定めがある場合でも、雇用契約から1年が経過している場合(労基法付則137条)は、就業規則や雇用契約の定め如何にかかわらず、損害賠償責任を負うことなく、一方的に退職することができます。ただ、この場合、退職できるのは退職の意思表示をしてから2週間を待たなければならないものとされています。
法律、就業規則、雇用契約の規定が相互に矛盾抵触する場合があります。この場合、規定の効力の優先順位は、法律 → 就業規則 → 雇用契約の順となっており、就業規則及び雇用契約の内容は法律に反することはできないので、反する場合はその規定は無効となり、法律の規定どおりとなります。
また、雇用契約はその内容が就業規則より労働者にとって有利な取り決めとなっている場合は、就業規則に反しても有効ですが、そうでない限りは、雇用契約は就業規則の定めに反することはできず、反する場合は就業規則の定めが優先します(労基法12及び13条)。